大栄翔(押し出し)照ノ富士今場所は通常の87パーセントを入場者の上限として開催。土俵に近いマス席は4人、後方のマス席は2人、2階イス席は隙間なく入れることになった。
幕内の時間になると、パッと見た限り満員で、力士たちからも、「お客さんが多くてびっくりした」「活気を感じた」「取組のやり甲斐がある」という声が聞かれた。そんな活気の戻ってきた場所で、上位陣による優勝争いを期待していたのだが、早くも裏切られることになった。
先場所で初優勝した関脇若隆景は力強い攻めで北勝富士に勝ったが、貴景勝、正代の両大関はそれぞれ琴ノ若、霧馬山に完敗。負け方が悪く、この先、優勝争いに絡むとは思えない。
御嶽海が苦手の髙安に勝って大関の面目を保つと、結びの一番で照ノ富士が土俵に上がった。対戦相手は小結に復帰した大栄翔。先場所も敗れており、過去に何度も苦戦を強いられてきた。休場明けの照ノ富士の調子を見極めるには絶好の相手だ。
立ち合い、照ノ富士はほとんど踏み込めず、大栄翔の当たりを受け止める形になった。大栄翔は下から押し上げ、ノドのあたりを突き上げる。上体が伸びた照ノ富士だが、相手の突きをはね上げ、右を差すと、大栄翔の左はバンザイ状態。それでも構わず大栄翔が前進し右ノド輪で押すと、照ノ富士は粘ることもできずにあっさりと土俵を割った。
殊勲の大栄翔は、「しっかり前に出られたのでよかった」と言いながらも、右を差されたので「土俵際はもっと厳しく攻めないとダメですね」と反省していた。
昨年の照ノ富士なら余裕を持って残して逆転していただろうが、まったく下半身に踏ん張りが効いていない。一番取って変わってくればいいが、この状態では途中休場しそうな雰囲気だ。
照ノ富士が万全でないなら、今場所も混戦だろう。内容は今ひとつながら、気合の入った相撲で難敵を下した御嶽海が優勝候補筆頭か。若隆景も力強かった。大穴なら番付を下げた明生か。とにかく最後まで手に汗握る面白い優勝争いを期待したい。
文=山口亜土